映画「風の波紋――雪国の村から」 (仮題) 製作趣意書
ドキュメンタリー映画監督:小林茂
私は新潟県の山村に生まれました。川からたき木を集め、秋にはキノコや栗の実を拾い、冬はきびしい暮らしではありましたが、雪は遊び友だちでもありました。宮沢賢治に「雪渡り」という童話があります。雪渡り(凍った雪の上を歩くこと)のできる満月の晩に、幼い兄妹が狐の幻燈会に招待される物語ですが、「林の中には月の光が青い棒を何本も斜めに投げ込んだように射して居りました」という情景は、昨日のように私の記憶にしみついております。
私は、そこから出て行かなければ自分の人生は始まらないと考えるようになり、村を出ました。しかし、縁あって、三十歳を過ぎて映画「阿賀に生きる」(佐藤真監督)の撮影を担当するために新潟県にもどりました。それは、村に育った頃には分からなかった奥深い人間の生き様をみる映画となりました。
その後、私はさまざまな現場で映画を作りましたが、私自身の足元をふたたび凝視することはありませんでした。
あるとき、ひょんなことから新潟県の豪雪地帯といわれる山村に、友人たちを訪ねました。夜露にぬれた草木が、朝の光に反応して、きらきらと輝いていました。その光は私の中の記憶にささやきかけるようでした。また、親友を失った悲しみをとかす熱のようにも感じました。
ちょうど、そのころ、渡辺京二著「逝きし世の面影」を紹介されました。江戸時代後半から明治にかけて、外国人によって書かれた日本人像を検証したものですが、当時の日本人は貧しいけれども貧相ではなく、子どもをかわいがり、よく笑い、その「風景」は美しいとあります。そして、そのような「文明」は滅びたというものです。
現在の日本は、農業人口の激減と高齢化、過疎化など深刻なものがあります。新潟県では中越地震、中越沖地震と続けざまに発生した大きな災害は、それに拍車をかけました。
しかし、そういう現状はありながら、「新そばを打ったぞ」「今年は山ぶどうがいっぱいなった」と、山や木や草や稲や野菜の匂いを身にまとい、山の友人たちは私の前に突然登場するのです。土と空気と太陽を毎日相手にしている人間の顔があります。私がすでに失ってしまった感覚です。
農作業の手伝いに出かけました。汗をかき、腰を伸ばして見上げる青空は透き通り、湧き水は身体中の細胞にしみわたるようです。
苦悩する「農村・農業問題」を抱えながらも、人間が自然と相対して醸し出される「喜び」や「精気」をたんたんと描いてみたいと思うようになりました。
透析治療を続けながら、この映画をやりきれるか、不安はありますが、新たな視点を模索しながらこの映画に取り組みたいと思います。
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2011.03.23 | Trackback(0) | お知らせ
