中国インディペンデント映画祭2011
*S東京特派員の映画祭巡礼記。
今回は昨年末開催の“中国インディペンデント映画祭2011”です。
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「ゴーストタウン」「歓楽のポエム」のチャオ・ダーヨン監督(右)と映画祭ディレクターの中山大樹さん
「ピアシングI 」のリウ・ジェン監督(右)とチャン・ザンボー監督(中央)
12月に東中野にあるポレポレ東中野で中国インディペンデント映画祭2011が開催されました。上映作品は全部で10本。そのうち去年の東京フィルメックスで上映された「独身男」を除いた9本がすべて日本初公開。今回が3回目のこの映画祭、前回が09年で焼く2年振りになりますがちょっと間が空いた分傑作ぞろいのラインナップだったと思います。遅くなりましたが「歓楽のポエム」以外の作品は見れたのでその感想を書きたいと思います。
「花嫁」チャン・ミン監督
妻を亡くした中年男のために仲間の男たちが嫁探し。自分の年を棚に上げて若い娘がいいとか言って何人もお見合いやデートをくりかえすのが前半。出演者は全員素人だそうで、主人公もほんとうにそのへんにいそうなぱっとしない感じで、はっきり言って実生活ももてなさそう(失礼)。前半の若い娘にフラレ続ける描写はユーモラスでもありけっこう醜悪でもあります。そんな主人公ですがなんと結婚相手が見つかります。しかしそこからの意外な展開にはあっと驚かされました。どんでん返しは続き、はっきり言ってひたすら観客を驚かせることを目的としたような映画。ただ最後まで見るとそれだけではなく、人生ままならないまま中年になってしまった男たちの悲哀とか人生のはかなさがにじみ出てラストはしみじみさせられました。また中年男たちとは対照的な花嫁になる若い娘のたどる運命もやるせなく印象に残ります。
「冬に生まれて」ヤン・ジン監督
以前にこの映画祭で「牛乳先生」という作品が上映されたヤン・ジン監督の新作。2時間を越す大作です。田舎の村に住む少年が主人公。ケンカに明け暮れる彼を見かねた母親はキリスト教系の学校に彼を預ける。大人しく従ったものの同じく学校になじめない同郷の少女と逃げ出す。二人は一緒に暮らしはじめやがて少女は妊娠する。貧しい村の暮らし、暴力が日常化している環境や、信仰に走る母親や親の盲目的な愛、さらに出生にまつわる秘密などのしがらみでがんじがらめになった少年。荒涼とした田舎の風景が不吉で悲劇を予感させますが、それを救うのが恋人との新たな関係。少年はすべてを捨て彼女との生活を始めることを選ぶことで救われていきます。なかなか強烈なラブストーリーでした。主人公とその彼女を演じているふたりは実際に夫婦だそうです。
「ピアシング I」リュウ・ジン監督
中国初のインディペンデント長編アニメ。監督のリュウ・ジンはひとりでこの作品を作りあげました。製作期間3年。実際にあった事件を基にした現代の北京を舞台にした社会派ドラマ。田舎から出てきた青年が北京の生活に疲れ帰省しようとしたとき、親切心からした人助けで犯人扱いを受け(関係のない者が倒れてる人を助けるはずがないという警官の理屈はすごい)、警察に暴行された彼は痛めつけられるばかりの自分に嫌気がさし、痛めつける側になろうと決意します。出てくる登場人物はみな欲にかられた者ばかり。前半の彼らのばらばらのエピソードが一点に収束するクライマックスは娯楽映画の手本のような展開。ラストの青年の運命は悲劇ですが彼がついに悪に染まらなかったのが救い。たびたび出る冬の夜空を照らす満月は空から人間たちの行いを見つめる天のまなざしのようでした。このアニメはシリーズになっていて現在2作目が製作中で、最終的には3部作になるとのこと。また日本での公開の話もあるそうでぜひ実現してほしいものです。
「天から落ちてきた!」チャン・ザンボー監督
人工衛星を打ち上げるロケットは発射されたあと空になった燃料タンクが切り離され地上に落下します。普通は海上などに落下して被害がでないようにするものだが中国はちがいます。田舎とはいえ人口10数万人が住む地帯に残骸をばら撒くのです。監督はこの事実を知って現地に取材に行きます。住民の被害の様子がときにユーモラスに描かれますがある少女が犠牲になったという事実には凍りつきます。ロケット発射の責任者は軍で、村民に対する軍人の横柄な態度がすごい。差別意識まるだし。こういう人たちだから人がいる地域に平気で残骸を落とすのだなと納得。特にすごいのが軍と役人、住人の補償をめぐっての面談のシーン。どうもこんなやりとりが表ざたになったらまずい、という感覚が彼らにはないらしいとあきれてしまいます。そして映画として構成がうまい、と思うのは発射後のできごとは描いているのに発射の間のことはなかなか出てこない。もし残骸が落ちてきたら―屋根を突き破り、田んぼに大穴をえぐるその破壊力を観客に知らせた後に上空を通過するロケットに下の村の様子をカメラは撮影します。映画館に響くロケットの轟音!ほんとうに恐ろしい瞬間・・でした。
「恋曲(こいうた)」チャン・ザンボー監督
「天から落ちてきた!」のチャン・ザンボー監督の作品。「天から〜」が国家と国民の幻想と現実を描いた作品ならこちらは男女の間の幻想と現実を描いた作品。主人公は監督の知り合いの女性。付き合って結婚を考えている男性がいるがどうも態度がおかしい。そこにかかってきたのは別れたはずの彼の奥さんからの電話。離婚したという彼の話は嘘だった。問い詰める彼女に別れを持ち出す男。で、ここからが問題なんですがこの現実を彼女は受け入れない。彼女の中にいる男性は現実のものではないようなのです。この映画の監督は男性ですが徹底的に主人公の女性側の視点でこの恋愛関係を描きました。中国が舞台でこれほど普遍的な作品は初めて見た気がします。
「占い師」シュー・トン監督
前作の「収穫」では性産業に従事する女性が主人公でしたが今回は占い師です。主人公は足に障害を持つ中年男。中国では占いは職業として認められてないということで警察の規制を受けて仕事が出来なくなることも。でも障害を持つ彼には他に生きていく手段がありません。また占いは当たる様でもあります。お客は水商売の女たちで、カメラは彼女たちも追う。彼女たちも警察の摘発を怖れる立場で貧しい暮し。そのうえ占い師の妻は知的障害者で、彼は自分も不自由な体ながら妻の面倒も見なければならない。社会から見捨てられたような「ただ生きていくだけ」の彼らの生活を描いて、大げさに言えば人はなぜ生きていくんだろうと考えさせられました。
他のドキュメンタリーでも共通していると思うのが大勢の観客の目に触れるということをわかってないのでは?と思える言動。また一旦信頼関係ができるとかなり親密になる人たちのようでもあります。この映画でも占い師はカメラに向かって障害者の妻と結婚した理由を「健常者が結婚してくれるわけがない」とさらりと言ったりします。
「ゴーストタウン」チャオ・ダーヨン監督
山のなかの住民が退去させられて廃墟になった村に違法に住みついた人たちの日常を記録したドキュメンタリー。映画はさ3章に別れていて、宣教師親子、人身売買の被害者の女性、浮浪児が主人公。中国の枠組みから外れた人たちが彼らの生活からはかけ離れた街の建物に住み、がらんとした家のなかで生活している光景はけっこうシュール。映画の撮影に使われてそのハリボテの銅像なんかが残っている町なのでなんというか現実味の欠けた情景で不思議な雰囲気。
「書記」チョウ・ハオ監督
中国の日本とは比べ物にならない受験勉強のすさまじさをユーモアを交えて描いた「高三」のチョウ・ハオ監督の作品。中国の行政単位で省の下が県になるそうなのですが、その県行政の実質的トップである県委書記に密着取材したドキュメンタリー映画。主人公が権力者側の人物というのは珍しいし、中国の権力者の日常をこれほど克明に描いた映画は初めてではないでしょうか。その書記の仕事振りは―一日中認可や陳情の対応に休む暇なく、食事は全て会合を兼ねてで、夜も毎日宴会。すごい仕事量をこなして大変なのですが中にはこんな細かいことまでやるの?と首をかしげるところも。任期終了まであとわずかな時期での取材だったせいか、それともやっぱりわきが甘いのか、こんなところ写ってもいいのという場面もけっこうあったりします。経済発展に乗り遅れた内陸部にあって企業を誘致したりと地域の発展に尽くした面もありますが自分の業績を振り返って道路を作った、ビルを建てたというのもそれだけなの?と疑問。映画の後半、台湾企業の社長が語る「企業家も役人も目的は同じ、権力と金だ」という言葉が強く残りました。そして映画の最後に撮影後に主人公の書記が・・収賄で逮捕されて服役中というオチがつきます。
これらの作品を見て思ったのは表現したい「なにか」とそれを表現する才能が大事だということ。豪華な商業映画を見るのはそれはそれで楽しいですが、インディペンデント映画にもまた別の見る楽しみがあります。ここで取り上げた作品はどれも見て損はない作品だと思います。
2012.02.02 | Trackback(0) | ごあいさつ
